平成18年度 第3回精神保健福祉講座 のご報告


 「アルコール問題を中心としたアディクション(依存症)について」と題して平成19年2月9日(金)、23日(金)、3月11日(日)の全3回にわたって鹿児島国際大学の岡田洋一先生を講師にお招きし講座を開催しました。
 岡田先生は、長年熊本県内の精神科病院で精神科ソーシャルワーカーとしてアルコール依存症をはじめとするアディクション(依存症)問題に取り組まれておられた方で、講座では貴重なお話を伺うことが出来ました。
 3回を通して一般市民の方、当事者の方、ご家族、援助者の方等分野を問わず幅広いところからご参加いただきました。

第1回 「アルコール問題とは何か」
 2月9日は、44名の方が参加されました。
講演では、アルコール依存症は誰でもなりうる病気であることに触れ、日本はお酒に関して寛容な文化であることやアル中と呼ばれていたものがアルコール依存症と変わってきた歴史的経過や医療・保健・教育・福祉の変遷の解説がありました。
 アルコール依存症者(中でも女性)は増加しており、家族を含めると実際には多くの方がアルコール問題に接しているということを話されました。
 また、アルコールを飲むことで生じる問題は様々であり、胎児・乳児・子供に与える影響や仕事、家庭を失うことになること、また、事故・犯罪のうち被害者・加害者のいずれかが飲酒をしているということは少なくないということでした。身近では、最近話題となっている飲酒運転についても、一向に減少しない背景にはアルコール問題が絡んでいる可能性が指摘されました。
 そして、アルコール依存症については、ビデオを交えながら医学的モデルとソーシャルモデルに触れて説明していただきました。
 質疑応答では、アルコール性認知症のことや、アルコール以外のアディクション(嗜癖)のこと、自助組織(断酒会)のことが語られました。岡田先生のご経験から、アルコール依存症からの回復には自助組織への参加が必要不可欠で、失敗しながらも自助組織でノウハウを学びながら断酒を続けることができると語られました。

第2回 「アルコール問題はどのように扱われてきたか」
 2月23日は、52名の方が参加されました。
講演は、前回の内容にも触れながらアルコール依存症者は依存症であることを否認するため、医療機関への受診や回復への取り組みが遅れること、内科的疾患のみと捉え、身体的に回復したことに安心し、飲酒を再開している例もあること、またアルコール依存症は完治できないが、お酒を飲むことを止める(断酒)努力をし続けることで回復が可能であると話されました。

 板書やビデオでは、家族がアルコール依存症者の世話を焼いたり、失禁の後始末や会社への休みの連絡を肩代わりする行為などが、問題を終結したいという意図とは逆に本人に依存の状態を助長してしまうこと、そのような関係状態にある人をイネイブラーといい、家族のイネイブラーからの回復が依存症者の回復に必要であるということでした。そのためには、家族が家族教室で病気について学び、依存者はARP(アルコールリハビリテーションプログラム)や断酒会などの自助組織に参加し、共に回復に取り組んでいくことの重要性など、依存症者と家族との関わり方について説明されました。
 質疑応答では、口頭や記入で寄せられた多くの質問に時間が足りなくなるほどでした。アルコール依存症から回復され、現在は自助組織や啓発などの活動をされている方からもお話をしていただきました。

第3回 「アルコール関連問題と家族」
 3月11日は53名の方が参加されました。
 アルコール依存症からの支援の中で、「アダルトチルドレン(以下AC)」という概念に出会ったこと、ACの歴史的背景、とらえ方、特徴、回復の段階についての話をされました。
 板書やビデオ映像を使って、アルコール問題を中心としたアディクション(依存症)を抱える家族は、依存をやめるかやめないかに関わらず幸せにならないといけないということが話されました。
 ACは、精神科疾患ではないが、何らかの生きづらさを抱えている人々であること、ACが今までどのように受け止められてきたか、ACは誰かが決めるものでは無いということが語られ、ACの特徴としては@自尊心の低さ、A環境の犠牲、B感情の見極めや表現が苦手、C援助を求めるのがうまくない、という4つの特徴のお話があり、ACの回復段階では、“人間は回復し続ける”、“過去から学ぶことは大切で回復をゴールではなく過程としてとらえる”ということが重要だと話されました。
 また、境界例パーソナリティ障害にもふれ、ACと似ている傾向はあるが、その違いについても話されました。
 質疑応答では、多くの質問が口頭や記入で寄せられ、最後は自助組織や啓発などの活動をされている方のお話や、アルコール依存症から回復された方のご家族で現在相談活動をされている方のご紹介や挨拶で終わりました。

 平成18年度の精神保健福祉講座は終了しましたが、
平成19年度も引き続き様々な講座を開催します。
今後もぜひご参加ください。